もくじ
- 日本におけるソーシャル・ファイナンスの現状
- 孫泰蔵氏が描くソーシャルビジネスのエコシステム、休眠預金活用推進法の成立など:資金供給面
- 日本初のBコーポレーション認定企業、ソーシャル・イノベーション・フォーラムなど:資金需要面
- 資金を仲介する組織のネットワーク化が進展:資金仲介面
- 社会的インパクト評価に対する関心の高まり、新経済連盟「ベンチャー・フィランソロピーと社会的インパクト投資に関する提言」など:基盤整備面
- 日本における社会的インパクト投資の市場規模について
- 日本型ソーシャル・ファイナンスの今後の発展に向けて
- 客観的なデータに基づいた成果評価で、社会保障費の長期的な削減へ
- 加藤たけし&佐藤茜(@AkaneSato)夫婦2人の情報発信
日本におけるソーシャル・ファイナンスの現状
保健医療、介護、子育て、教育、雇用、コミュニティなど、ソーシャルセクターの多様な活動のための資金調達を指す「ソーシャル・ファイナンス」。
海外ではクラウドファンディングやマイクロファイナンスはもちろん、社会的インパクト投資やソーシャル・インパクト・ボンドなど、新たなソーシャル・ファイナンスの手法が注目を集めています。
日本国内でも多様な動きがあり、たとえば社会的インパクト投資やソーシャル・インパクト・ボンドに関しては、僕もこれまでにこんな記事を書きました。
登壇したので書きました!
社会起業家やソーシャルベンチャーの資金調達戦略、「今」と「これから」【シビックテックフォーラム 2016 イベントレポート】 https://t.co/FQU4rxYTJM pic.twitter.com/COe1buig2W
— 加藤たけし(Takeshi Kato) (@takeshi_kato) 2016年5月8日
<過去に書いた社会的インパクト投資やソーシャル・インパクト・ボンドに関するイベントレポート>
■ シビックテックにおける2015年の振り返りと2016年に注目すべき8つのキーワード(2016年1月)
■ 社会的インパクト投資、シェアリングエコノミー、代表制民主主義…世界の事例に学ぶシビックテック最前線(2015年11月)
■ 世界の最新事例が結集したPersonal Democracy Forum帰国報告会 〜テクノロジーで変える政治と市民社会(2015年7月)
また、軽井沢で開催された「ソーシャル・ファイナンス研究会」の合宿に参加するなど、ソーシャル・ファイナンスの最新動向は僕もできるだけ追いかけるようにしています。
ということで、明治大学リバティタワーで先日開催された第8回目のソーシャル・ファイナンス研究会は最終回。過去7回の研究会での議論を踏まえた総合討論にあたって、この研究会の主宰者である小林立明さんが、日本におけるソーシャル・ファイナンスを「資金供給」「資金需要」「資金仲介」「基盤整備」の4つの観点で整理してくれました。

せっかく参加してきたので、小林さんが整理した内容をこの記事で簡単にレポートしたいと思います。
(以下、小林さんがお話された内容をメモしたテキストをベースに、僕が見出しをつけました)
孫泰蔵氏が描くソーシャルビジネスのエコシステム、休眠預金活用推進法の成立など:資金供給面
日本のソーシャル・ファイナンスの現状と今後を考えるにあたって、今何が起きているのか、「資金供給」「資金需要」「資金仲介」「基盤整備」という4つの観点から見ていきたいと思います。
資金供給面でいえば、NPO法が成立した97年に比べても圧倒的に拡大しています。NPOローンが始まり、市民ファンドも広がって、社会的インパクト投資やソーシャル・インパクト・ボンドも導入されようとしています。インパクト投資機関やクラウドファンディングのプラットフォームも登場し、資金供給は拡大かつ多様化していると言えるでしょう。
新たな動きとしては、昨年の「休眠預金活用推進法」の成立が挙げられます。毎年1,000億円近く発生する休眠預金のうち、600~700億、あるいは400~500億かは分かりませんが、私からすると「とても大きなお金」としか言いようのないお金がソーシャルセクターに流れ込んで来ることになりました。
またソーシャル・インパクト・ボンドが本格化するとともに、孫正義さんの弟である孫泰蔵さんが、おそらく日本初となるソーシャルベンチャー専門の投資機関「Mistletoe(ミスルト)」をつくり、ソーシャルビジネスのエコシステム形成の活動を開始しました。
行政サイドでいえば、私が非常に興味を持っている「地方創生」に伴う新たなファイナンス手法も検討されています。具体的には、地方創生を目的とした空き家や古民家の活用をしやすくするための、不動産特定共同事業法の見直しなどが挙げられます。
また、地方自治体に作られた市民ファンドが、クラウドファンディングを利用した資金調達の支援に乗り出す動きも出てきています。
日本初のBコーポレーション認定企業、ソーシャル・イノベーション・フォーラムなど:資金需要面
一方、需要側、資金を受ける側に関しても、もちろん拡大・多様化が進んでいます。新たな動きとしては昨年、B-Corpの認証を取得した団体が日本で初めて現れたことが挙げられます。B-Corpの推進協議会もできました。
そして、ソーシャルビジネス発展のためのエコシステムの確立に向けて、たとえば社会起業塾、SUSANOO、ソーシャル・イノベーション・フォーラムのような、様々なネットワーキングの機会が生まれました。
新たな法人格や認証の検討に関しては、地域を支えるサービス事業者のあり方についての報告が経済産業省から出ていたり、B-Corpのような認証システムをつくってはどうかということも言われています。
また、ハイブリッド法人としてローカル・マネジメント・コーポレーションのような、新しい、非営利を混合したような法人を検討するような動きも起こっています。
自治体レベルでは、社会的企業の認証はいろいろな所で導入されており、これも一つ後押しになっていると思われます。
資金を仲介する組織のネットワーク化が進展:資金仲介面
資金仲介面についてですが、NPOバンク連、全国コミュニティ財団協会、市民ファンド推進連絡会など、資金を仲介する組織のネットワークも進展してきました。
注目点としてはやはり休眠預金活用推進法で、その中で「資金仲介セクターを通じた資金提供」が謳われています。
これはアメリカでいうところの1990年代初頭、コミュニティ開発金融基金ができた頃。あるいはイギリスでいうところの2000年代初頭、フェニックス基金ができてコミュニティ開発金融が発展し、お金が流れていったのと同じような状況が日本でも生まれてくるのではないかと期待しています。
お金が入ってくれば、そこに人と組織が生まれてくるというのは当然ですので、これが一つの転機になるのではないでしょうか。
他にも、Local Goodネットワークという、クラウドファンディングによって地域の課題に取り組もうというネットワークも、横浜、福岡、北九州などの地域をベースにして活動しています。
またクラウドファンディングのプラットフォームとしても、CAMPFIRE、そしてJapanGivngで個人向けのソーシャル・レンディングに向けて動き始めていると聞きますし、ミュージックセキュリティーズは自治体や地銀・信金との連携を強化しています。
ふるさと納税についても、さまざまな自然災害があり、その際にかなり強力なツールとして使われることが分かってきました。クラウドファンディングについても、発展が続いていると言えるでしょう。
社会的インパクト評価に対する関心の高まり、新経済連盟「ベンチャー・フィランソロピーと社会的インパクト投資に関する提言」など:基盤整備面
4つ目として、基盤整備という観点で言えば、一番大きかったのは「社会的インパクト評価」についての関心が高まったことではないでしょうか。「社会的インパクト評価イニシアチブ」も立ち上がり、「非営利組織評価センター」も設立されました。
また、新経済連盟が「ベンチャー・フィランソロピーと社会的インパクト投資に関する提言」を発表しました。ベンチャー・フィランソロピーのような、一部の人たちが使っている言葉でしかなかったものが、新経済連盟のような経済セクターの本流とも言えるところから出てきたということも、新たな動き出しを感じるポイントです。
行政の方では、中小企業庁が2015年、地域の課題を解決するために、金融機関向けの事業評価の手引きと、事業者向けの事業計画書作成の手引きを公開しています。
もちろんその前に環境省や国土交通省が、地域ファンドや市民ファンド設立マニュアルを作っていますが、こういうマニュアルが行政主導でつくられていくと、それを見て実際に「これを使って資金集めをしよう」というような方々が出てきますし、基盤整備は進んでいるのではないかと思います。
日本における社会的インパクト投資の市場規模について
また、日本における社会的インパクト投資の市場規模がまとめられた「日本における社会的インパクト投資の動向」という報告書がありまして、これを見ると、2016年度で総額337億円という規模ですかね。その中にはいろんなアクターが登場しているということが読み取れます。
続いて、日本におけるクラウドファンディング市場の規模ですが、こちらの方も着実に、海外に比べると伸び率はまだ低いのですが、着実にクラウドファンディング市場が伸びていることが分かります。
特に、一番大きな要素を占める貸し付け型、ソーシャル・レンディングというのがどんどん大きくなってきています。今までは、ソーシャル・レンディングではあるけれども、個人が機関に対して投資、貸し付けをするという形が中心でした。それがおそらく、CAMPFIREやJapanGivngのような、今まで購買型と寄付型のクラウドファンディングをしていたプラットフォームが、Peer to Peer、個人が個人に対して貸し付けするというようなシステムを導入することを検討しているということは何となく想像ができます。
そうすると、社会的企業、あるいは個人型の小規模企業に対する資金調達が、一気に変わってくるのではないかと考えています。
日本型ソーシャル・ファイナンスの今後の発展に向けて
日本におけるソーシャル・ファイナンスの今後の発展を考えるにあたって、主な論点としては、まずは「分野」があるでしょう。格差・貧困、保健医療、地方創生、再生エネルギー、開発協力など、いろいろあるわけですが、どの分野で求められているのか、あるいは有効なのか。
また、もう一つは「手法」です。どういう手法が求められているのか。補助金なのかローンなのか信用保証なのか、それとも投資やクラウドファンディングか…日本型のソーシャル・ファイナンスをどのように発展させていくのか、さらには「政策」や「担い手」など、議論を深めていく必要があります。

一方、ソーシャル・ファイナンスの発展に伴って起きるであろう問題についても、常に念頭に置いておかなければいけません。補助金と投融資をどのようにうまく組み合わせていくのか。単にお金を出す側が決めるのではなく、事業サイドあるいは受益者サイドの意見をどういう風に反応、反映させるのかという、そういう仕組みづくりをしていかなければいけないと思っています。
どういう制度設計をしていけばいいのか、というような問題点、そういうのを考えながら次のステップとしてどうしていくのかということを議論していければと思います。
客観的なデータに基づいた成果評価で、社会保障費の長期的な削減へ
ということで、日本におけるソーシャル・ファイナンスの現状を「資金供給」「資金需要」「資金仲介」「基盤整備」の4つの観点で整理した小林さんの講演はこのような内容でした。

他にもこの日のアジェンダとしては、ソーシャル・インパクト・ボンドの国内外の最新動向など。

研究者、行政、金融機関、記者、実務家、ソーシャルセクターなどの方々が集まって開催されたソーシャル・ファイナンス研究会の最終回は、ここでしか聞けない最新動向とともに、気づきや出会いがあふれる場になりました。
人生100年時代。客観的なデータに基づいた成果評価の重要性はさらに高まってくるでしょうし、予防医療や貧困対策など、社会保障費の長期的な削減につながりうる分野におけるソーシャル・インパクト・ボンドの導入にはこれからも注目していきたいと思います。
そして改めて。
【ブログ更新】社会問題を解決する新たなキャリアについて。/企業、政府、非営利組織の垣根を超えて活躍するトライセクター・リーダーとは? | アットカフェ http://t.co/vRpxcd4qDJ
— 佐藤 茜 (@AkaneSato) 2014年4月15日
政府にしか解決できない課題は年々減っており、民間や個人が関わり、解決する課題が増えてきていると感じます。また、グローバル化等でビジネスが複雑化し、企業間の競争も激化しているために、必要とされる人材の幅も広がっています。
企業、政治・行政、非営利組織の境界は年々曖昧になってきており、持続的な発展のためには全てのセクターでの知見を集結させることが必要になってきているのだと思います。
※ 企業、政治・行政、非営利組織の垣根を超えて活躍するトライセクター・リーダー(Tri-sector Leader)とは? より
妻の茜(@AkaneSato)もこう書いてますが、多くの社会課題の解決は、組織・セクターの壁を越えた協働なしには実現しないでしょう。
僕もビジネスとしては引き続きループスで、NPOとしてはソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)やETIC.で。また個人としても、妻の茜(@AkaneSato)の専門分野とも関わりながら、セクターを越えて価値を出していけるよう、これからも夫婦で頑張ります。
何かご一緒できそうな機会があれば、ぜひお気軽にお声がけください〜!
<NPOのWebマーケティングに関して>
以下は以前講演させていただいたNPOサマースクールのスライドです。微力ではありますが、できる範囲でNPOの方々のお力になれればと思っていますので、何かあればいつでもお声がけください。
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加藤たけし&佐藤茜(@AkaneSato)夫婦2人の情報発信
インターネット、マーケティング、テクノロジー、コミュニティデザイン、NPO、地域活性、海外、新しい働き方などのテーマにおいて、加藤たけし&佐藤茜( @AkaneSato )の夫婦2人で情報発信しています。
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これからもできる範囲で記事執筆を頑張りますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。