社会

55歳からの人生論 ー「考える生き方」と「ぶざまな人生」を読んで

55歳の人気ブロガーが人生を振り返って書いた半生記

人気ブロガーfinalvent(ファイナルベント)さんの「考える生き方」を読みました。

finalventさんのブログは今まであまり読んだことがなかったのですが、本屋でこの本をパラパラ読んで気になったので購入しました。内容は、現在55歳のfinalventさんが、いままでの人生を振り返って書いた半生記です。

finalventさんは、自分の人生は「からっぽ」で、自分は「失敗者」「負け組」だと語っています。有名ブロガーで、執筆や翻訳関係のお仕事をフリーランスでしていて、結婚してお子さんもいるfinalventさんが「負け組」かどうかという議論はここでは置いておきます。

本書では「大半の人は、若い日の希望を基準に計るなら、人生の失敗者になる」と書かれているので、finalventさんもその意味でご自身を「負け組」と定義しているのでしょう。

世の中には、「こうしたら成功できる」とか、「こうやって成功した」という本はいっぱいあるが、「残念、私の人生は失敗だったんだけどね」という本はあまりないように思う。

「読む人いないよ、そんな本」と言われるとそうだが、冷静に考えると、多数の人は私みたいに「人生、失敗したなあ」という人生を送ると思う。で、どうする?

考えるわけです。「なんだろ、自分の人生?」と。

そういう状況で考えながら生きて来た人の事例を書いた本が一つくらいあってもよいのではないかと。

そういう事例を一つくらいでも知っておくと、人生つまづいたとき、驚かず、「人生、そういうこともあるんだ」というふうに、多少、絶望予防の「心のワクチン」みたいになるかもしれない。

(「考える生き方」より)

こうして、大学院を中退したことや、就職の話、知人との事務所経営の失敗、また結婚や子育ての話、その時にfinalventさんが考えたことが綴られていきます。大きな事件があるわけでも、成功する秘訣が載っているわけでもありません。万人にはおすすめできませんが、私はこういう本、好きです。

いわゆる「ふつうの人」が内省して書いた文章ってネットが普及してたくさん読めるようになったけど、こうしてまとまって時系列で読める書籍の形になってるものってまだ少ない気がします。

55歳の会社員が書いた「普通の人のための人生論」

本書を読んでいて、約10年前、私が高校生の時に好きだった勢古浩爾さんが書いた「ぶざまな人生」を思い出しました。この本は、finalventさんと同じ55歳(当時)で会社員をしながら執筆活動もしていた勢古さんが書いた「普通の人のための人生論」です。

通常、人生論なるものは、哲学者とか成功した経営者とか著名な評論家とか宗教家といったつぶしの利く人間が書くものと相場はきまっている。しかし、かれらの人生論はおおむね「大企業」(立派で高尚)の人生論である。敷居が高すぎるのだ。それに比して本書は、全然つぶしの利かないふつうの中年男が書く人生論である。(中略)いわば「中小零細企業」向けの人生論である。

(「ぶざまな人生」より)

日本の会社の九十五パーセントが中小零細企業なのに、だれもが五パーセントの大企業のような人生を送りたがる。無理もないが、これまたあなたの実情にはあっていないのではないか。

(「ぶざまな人生」より)

 

finalventさんの本はより「自分語り」寄りで、勢古さんの本は他書からの引用も多くより一般論寄りになっていますが、上記に引用したように、通底するコンセプトは似ています。

 

勢古さんは「ぶざまな人生」の中で、「『人生』は五十代のもの」と語っています。

若者は「自分の人生はどうなるのか」と考えるかもしれない。だが中年は「自分の人生とはなんなのか、なんだったのか」と考える。かりに人生八十年としてみると、その過半の四十年を超えない者に「人生」はない。四十歳未満の人間は、口では「人生」などと言っても実際にはまだ「人生」を舐めている。高を括っている。

(「ぶざまな人生」より)

 

55歳になった時にまた読み返したい「考える生き方」と「ぶざまな人生」

55歳は1970年代の大企業の定年の年齢で、finalventさんも55歳を過ぎて「自分の人生はなんだったんだろうかと思うようになった」とおっしゃっています。

二十代の自分は、まだまだ人生を作っていっている途中なんだろうなと感じます。私が55歳になって、自分の人生を振り返って本を書くとしたら、どんな内容になるんでしょうか。

finalventさんや勢古さんのように、教養が感じられて示唆に富む本を書くのって、難しいんだろうなぁ…。また彼らと同じ年になったらこの2冊、読み返そうと思います。

勢古さんはその後、「定年後のリアル」という本も出されています。私にはまだ早いと思いつつこちらも読んでみたのですが、定年した後の淡々とした生活とその中で感じたことが綴られていて、「普通の人の老後」がなんとなくイメージできてよかったです。

続編の「定年後7年目のリアル」も読みました。

今回の記事と近いテーマのブログ記事

あわせて読みたい
人生100年時代の生き方と働き方。ライフシフト〜100年時代の人生戦略(書評)読んだ後、これから自分がどう生きていけばいいかの道筋がよりクリアになり、未来により希望が持てるような、そんな気分になる本でした。本書は基本的に、人生100年時代を迎えるにあたってのポジティブな側面に光を当てていますが、もちろん課題についても言及しています。...
あわせて読みたい
人生は短い…人の一生をテーマにした映像5選「人生は短い」と知りながらも、ついつい時間を無駄にしてしまったり、だらけてしまったり…そんな時にこういった映像を見ると、少しは一生を俯瞰的に捉えられるようになるかな?と思っています。...
あわせて読みたい
未来を考えるための2冊「大震災の後で人生について語るということ」「希望の国のエクソダス」 今年読んだ本の中の中でおもしろかったもの2冊を選んだら、「未来」が共通するテーマになりました。年末年始、今後の社会や生き方を考える際...
あわせて読みたい
幸せになるための5つの行動ここで紹介されているのは、スピーカーが「 幸福度の向上につながる5つの行動とは何か?」というテーマで政府と大規模な調査をした時の結果です。...
あわせて読みたい
所得のフラット化 〜世界の変化をビジュアルで見る〜ここ数年、日本はもちろんのこと、先進国での賃金低下や、中流から下流へのシフトなどの問題をよく耳にします。この記事は、ハンス・ロスリング教授が示した世界の「所得のフラット化」について紹介しています。...
あわせて読みたい
「先入観をくつがえそう」ハンス・ロスリング教授が示す、データによる新しい世界の見方先週、東大で行われた統計学者のハンス・ロスリング教授の公開講義「先入観をくつがえそう」に参加してきました。...
あわせて読みたい
サンフランシスコ・シリコンバレーで感じた「未来」【講演スライド】今回の話は、2025年の社会を予測して書かれた「ワーク・シフト」を軸にまとめました。渡米直前に本書を読んだのですが、滞在中、「いま経験してるこれって、ワークシフトで描かれていた"未来"そのものだ」感じることが多々あったためです。サンフランシスコ近辺は「未来が偏在している場所」なのかもしれません。...
あわせて読みたい
ヒップな生活革命
アメリカで起きている生き方の変革とは?ー「ヒップな生活革命」を読んでアメリカのニューヨークやポートランドを中心に起こっているライフスタイルの変化をリポートした「ヒップな生活革命(佐久間 裕美子・著)」が面白かったです。...
ABOUT ME
佐藤 茜
2歳児の子育てをしながら編集・マーケティングまわりで活動中。NPO法人ETIC.が運営するDRIVEメディアの編集長。 大学卒業後、人材系ベンチャーで新規事業立ち上げやマーケティングを担当。ニューヨーク留学、東北復興支援NPO、サンフランシスコのクリエイティブ・エージェンシーでのインターン、衆議院議員の広報担当秘書等を経験。 より詳しいプロフィールはこちらから↓
関連記事