もくじ
ニューヨークやポートランドを中心に起きているライフスタイルの変化をリポートした「ヒップな生活革命」
アメリカのニューヨークやポートランドを中心に起こっているライフスタイルの変化をリポートした ヒップな生活革命 が面白かったです。
どのような変化が起きているのか?というところですが、本書の「まえがき」によると以下のような価値観を持っている人がアメリカのリベラルな都市を中心に増えてきている、ということでした。
“口に入れたり、身に着けたりするものがどこで作られ、どこからやってきたのかを考えよう、社会的責任に重きを置く企業を支持しよう、「より大きいものをよりたくさん」という消費活動と決別しよう、お金さえ払えば誰でも手に入れることのできる高級ブランドのバッグよりも、自分がより強いつながりを感じるものを、たとえば同じコミュニティの一員がデザインし、地元の工場で、自分たちと同じ電車に乗って仕事に通う人が作る商品を使おう、という新しい価値基準”
この本は、ニューヨークでライターをされている作者の 佐久間裕美子 さんをTwitterでフォローしていて知りました。私も以前ニューヨークとサンフランシスコにそれぞれ3ヶ月ずつ住んだことがあり、また学生時代にポートランドに行きたいなと思っていたので(結局行けてないですが)、本書で書かれていることにはとても納得感がありました。
日本にも輸入されているムーブメントもあり、例えば「サード・ウェーブ・コーヒー」なんかは最近日本でも耳にするようになってきました。本書を読むことでその背景にある文脈をより深く理解できると思います。
(サード・ウェーブ・コーヒーについては前にブログで少し紹介しました。)
本書には「ヒップな生活革命」の様々な事例が載っています。その中で3つほど特に気になったトピックを紹介したいと思います。
1. Giving Tuesday(ギビング・チューズデー)
2. B Corporation(Bコーポレーション)
3. Locavore(ローカヴォア)
Giving Tuesday(ギビング・チューズデー)
「ブラック・フライデー」といえばアメリカでは感謝祭(11月の第4木曜日)翌日の金曜日の年末セールの始まりの日のことで、一年で一番アメリカ人が買い物をする日。まさにアメリカ的消費主義を象徴するような日ですが、これに対抗して2012年にGiving Tuesday(ギビング・チューズデー)というムーブメントが始まったそうです。これは、感謝祭明けの翌週の火曜に、買うのではなく「与える」つまり寄付をしようというキャンペーン。
ビル・ゲイツを始めとする様々なインフルエンサーが参加し、オンラインでも話題になりました。Twitterでは #GivingTuesday がほぼ一日中トレンドにあがり、総ツイート数は約27万。政府を巻き込むことにも成功し、大統領の特別補佐官がギビング・チューズデーに関してホワイトハウスのウェブサイトに寄稿したそうです。
オンライン寄付決済のBlackbaudでは、2013年のギビング・チューズデーは前年と比べて90%も寄付額が増加し、総額1920万$(約19億2000万円)に。オンライン以外も合わせたら相当な金額になりそうですね。アメリカを含む11カ国以上、1万以上の団体が参加しました。
Giving Tuesday Smashes Records, Spurs 90% Donation Spike
http://www.huffingtonpost.com/2013/12/05/giving-tuesday_n_4391367.html
アメリカは消費の国でもありますが、寄付も盛んで、年間の寄付総額(個人・法人を含む、2012年)は3,162 億ドル=約27.2兆円※。それに比べて日本は約1.4兆円と10分の1以下です。
※2012年末の為替レート。
次のギビング・チューズデーは2014年12月2日。日本でも何かできたらいいですね。
Giving Tuesdayのサイト
http://www.givingtuesday.org/
B Corporation(Bコーポレーション)
アウトドアウェアの「パタゴニア」は、2012年に「Bコーポレーション」になりました。「Bコーポレーション」の「B」はベネフィット(利益)の頭文字で、”公益を考える企業”という意味が込められているそうです。
「Bコーポレーション」は、ペンシルバニア州で2006年に設立された非営利団体「Bラボ」が認定を行っています。認定されるためには、社会的責任を果たしている必要がありますが、詳しい基準がパタゴニアのサイトに載っていたので以下に引用します。
Bコーポレーションとなるためには、会社は明白な社会的/環境的使命と、株主だけではなく社員やコミュニティー、そして環境の利害を考慮するための法的拘束力のある受託者としての責任を有する必要があります。会社はまた、持続可能性および労働者の好待遇についての〈B Lab〉の誓約を採用するために、定款の改正をしなければなりません。さらに〈B Lab〉から認証を得るためには、Bコーポレーションはその収益に基づいた年会費を納め、年2回Bインパクト・レポート(社会的/環境的インパクトを調査する長いアンケート)を提出し、〈B Lab〉の包括的な社会的/環境的パフォーマンス水準を満たし、Bインパクト・レポートを一般に公開しなければなりません。
パタゴニア:企業パートナーシップ:Bコーポレーションより
http://www.patagonia.com/jp/patagonia.go?assetid=71181
具体的には、オフィスのエネルギー消費を抑えるための取り組みや、従業員に対する福利厚生、社員の中のマイノリティや女性の比率なんかが審査の対象になるそうです。
Bコーポレーションには現在34カ国で1053の企業が認定されています。残念ながら日本の企業はゼロです。有名どころでは、ハンドメイド商品販売サイトのEtsy(エッツィ)やアイスクリームのベン・アンド・ジェリーズもBコーポレーションです。
Bコーポレーション認定企業のリスト
http://www.bcorporation.net/community/find-a-b-corp
日本ではここ数年「ブラック企業」が話題ですよね。日本でBコーポレーションに認定される企業が出たら、そこに就職したいと思う人もけっこういるのではないでしょうか。
B Corporationのサイト
http://www.bcorporation.net/
参考記事:
ノーベル賞教授も語る、新しい社会貢献型法人「ベネフィット・コーポレーション」 | CSRのその先へ
http://andomitsunobu.net/?p=6135
Locavore(ローカヴォア)
Locavore(ローカヴォア)は、「自分が暮らす地域(理想的には半径100マイル=約160キロ以内)から食品を調達するという主義を実践する人」のことだそうです。日本の「地産地消」と近い考え方ですね。
最近はニューヨーク市で屋上農園が増えているそうで、大型屋上農園「Gotham Greens (ゴッサム・グリーンズ)」で作られている野菜はニューヨークの高級レストラン等でも人気だとか。都市部は害虫も少なく有機農業に適していること、食料を運搬するコストが抑えられること、都市部での雇用創出にも繋がること等がメリットとしてあるようです。
日本で似ている活動として思い浮かんだのが「銀座ミツバチプロジェクト」。 銀座のビルの屋上でミツバチを飼い、蜂蜜を採っているNPOです。もちろん大気汚染の影響は注意しないといけないですが、こういった屋上の土地の活用はおもしろいですね。
参考記事:
アメリカ・ニューヨーク発 屋上農園とレストラン – 海外トレンドリポート – 1
http://pro.gnavi.co.jp/magazine/article/column_2/c2369/
「資本主義はこれからどこにいくのか?」というテーマに文化の面からアプローチしている本だと感じました。アメリカで起きているこういったライフスタイルの変化の兆しが、今後どう変化し、どう世界に波及していくかはこれからも注目していきたいと思います。
読んでてアメリカにまた行きたくなりました。特に最近日本でも注目を集めているポートランドはぜひ行ってみたいです!
本書を読んで、菅付雅信さんの 中身化する社会 に近い雰囲気を感じたのですが、裏表紙に「編集:菅付雅信」の文字が。本書に共感した方には「中身化する社会」もおすすめです。これも「大量消費的な流行に流されず、衣食住すべてにおいてより本質を追求するようになる」社会の変化を、アメリカでの取材を交えながら論じている本でした。