社会

パワーカップルとウィークカップルに二極化する日本の夫婦像ー「夫婦格差社会」

労働経済学を専門とする橘木先生の新刊のテーマが「夫婦格差」だったので気になって読んでみました。

格差が拡大し、二極化する日本の夫婦。その鍵を握るのは妻だ。女性と仕事の関係から未婚・離婚問題まで、データで探る日本の夫婦像。
(Amazonの内容紹介より)

夫婦格差社会 〜二極化する日本の夫婦像をデータから紐解く

経済学では「夫の収入が高いと、妻が働く率は低くなる」という「ダグラス・有沢の第二法則」が各国で長年信じられていました。夫の収入が高い場合、妻は働く必要がないので専業主婦になり、夫の収入が低い場合、妻はパートなどに出て働かなければならない、ということですね。ただ、近年の日本でその法則が崩れてきているとのこと。

本書でも紹介されているこのグラフから、その変化が読み取れます。

夫の収入と妻の就業率の関係について 平成 20 年1月 21 日 総務省統計局
http://www5.cao.go.jp/statistics/meetings/iinkai_5/sankou_7.pdf

 

1980年台(紺色、ピンクの線)では夫の所得階級が上がるほど妻の有業率が下がっているのがはっきりわかります。しかし1992年以降(黒、緑の線)ではかつてのような右肩下がりのグラフからゆるやかな山型のグラフに変わっています。

夫の所得が低い場合にそれを補うために妻が働くという従来の傾向がなくなりつつあるようです。

「似たもの同士の夫婦で共働き」が格差拡大につながっているー増える「パワーカップル」

また、本書では学歴・職業・所得が似たもの同士でカップルになる傾向が高いという事も示されています。「似たもの同士の夫婦で共働き」ーこれが格差拡大につながっているそうです。

このことをちょっと具体例を出して考えてみます。

たとえば、年収300万円の男性と年収200万円の女性のカップル、年収1000万円の男性と年収600万円の女性のカップルがいたとします。「夫の所得が高いほど妻の有業率が下がる」という法則をあてはめると、前者が結婚すると世帯年収は500万円、後者は女性が寿退職して専業主婦になるので世帯年収は1000万円。

この2つの夫婦での世帯年収の差は500万円になります。

しかし最近は妻が夫の収入に関係なく働くようになってきているため、後者の世帯年収は1600万円となり、2つの夫婦での世帯年収の差が1100万円となります。

過去に多かった専業主婦の存在は、世帯間の所得格差を解消する働きがあり、これが日本の一億総中流化に一役買っていたのですが、それが今はなくなってきていて、「ウィークカップル(弱いカップル)」と「パワーカップル(強いカップル)」に二極化してきているということでした。

妻の勤労による所得が、夫婦合算所得の平等化に寄与していた時代は終了し、むしろ格差拡大・不平等化に寄与する時代になっている
(p27)

今後もこの傾向が進むと予想されますが、パワーカップルとウィークカップルで子どもの教育費に如実に違いが現れそうです。階層の固定化が懸念されますね…。

またパワーカップルといえば、私の世代ではマークザッカーバーグ夫妻が思い浮かびます。

以下の記事では、上記のカップルに加え、スティーブ・ジョブズ、Google創業者のセルゲイ・ブリン、ビル・ゲイツの奥様たちを紹介し、”シリコンバレーのIT富豪の妻たちは、夫の資産に依存して暮らす「お飾り」的存在というよりは、自身も自らの力で成功を収めている”と記述しています。

フェイスブックCEO夫人は玉の輿か  IT長者の配偶者選びに共通点:日本経済新聞

ほかに「夫婦格差社会」の中で興味深いと思ったポイント

本書でその他、興味深いと思った部分は以下。

もう一つ注目すべきなのは、夫の年間所得が100万円未満という超低所得階級における妻の有業率である。1982年に比べて、調査年ごとに低下しており、20年で10ポイント近く低下している。このことは、夫の所得が低いにもかかわらず、妻が働かない夫婦の比率が上がっていることを示している。(p18~19)

これは少し驚き。生活保護を受けたり、親などの援助で生活しているということなのでしょうか。

男性は一度離婚しても後に再婚することが多く、近年ではその傾向が強まっている。しかも男性で再婚する人は、女性の未婚者と結婚することが多い。つまり一人の男性が複数の女性未婚者と結婚する結果、あぶれる男性が生まれるのである。(p113)

これは2010年時点で男性の生涯未婚率が女性よりも2倍近く高くなった理由を説明している部分からの抜粋(男性20.1%、女性10.6%)。一部のモテる男性が複数回結婚する構造は、「時間差の一夫多妻制」なんて言われることもありますね。

また、男女交際に関してのデータでも、女性の方が交際相手を持つ人の割合が男性より高くなっていました。この理由のひとつとしても、「人気のある男性が複数の女性と交際するケースが多く、男性があぶれてしまうためである」と説明されています。

 

結婚後期(10〜30年)の離婚については、「夫の職業階層」が圧倒的な影響力をもつ。経済状況が低成長期の場合、夫が中小企業に勤めていると、大企業に勤めているより離婚確率が大きく跳ね上がるという。高成長期においては、夫がどのような企業に勤めていても離婚率の差は小さい。この結果を見るに、夫婦の生活の要は結局お金なのかもしれないとさえ感じる。(p154)

今は言わずもがな低成長期ですが、これは悲しい現実ですね…。

「夫婦格差社会」は結婚に関する日本の現状について知りたい方や、結婚とはそもそも何かについて考えたい方向けの本

書籍「夫婦格差社会 – 二極化する結婚のかたち」には、こういった夫婦に関するデータが多数紹介されていて、とても面白かったです。

「婚活や結婚生活に役立つ」といったような即効性のある本ではありませんが、結婚に関する日本の現状について知りたい方や、結婚とはそもそも何かについて考えたい方は楽しめる内容だと思います。

共働き夫婦の生き方を考える際に役立つ実用的な本としては以前紹介したこちらがおすすめです。

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最後に「夫婦格差社会」の目次を載せておきますね。

第1章 夫の所得と妻の所得ー不平等の鍵はどちらに
第2章 どういう男女が結婚するのか
第3章 パワーカップルとウィークカップル
第4章 結婚できない人たち
第5章 離婚による格差
第6章 地域差を考える

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佐藤 茜
2歳児の子育てをしながら編集・マーケティングまわりで活動中。NPO法人ETIC.が運営するDRIVEメディアの編集長。 大学卒業後、人材系ベンチャーで新規事業立ち上げやマーケティングを担当。ニューヨーク留学、東北復興支援NPO、サンフランシスコのクリエイティブ・エージェンシーでのインターン、衆議院議員の広報担当秘書等を経験。 より詳しいプロフィールはこちらから↓
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