コラム

いいお金の使い方って?「記憶の配当」にヒントがあるかも。―「DIE WITH ZERO」感想

お金の稼ぎ方や貯め方の情報は多いけれど、お金のいい使い方の情報って少ないなぁ……そんなことを思っていた時に、面白い本に出会いました。

2020年に出版された「DIE WITH ZERO」です。

タイトルの通り、「ゼロで死ぬ」、つまり生きているうちに持っているお金のすべてを価値のあることに使い切ろう、というのが本書のテーマ。

イソップ童話の「アリとキリギリス」で、勤勉なアリと気楽なキリギリスが出てきますが、この本は「アリ」タイプ――将来に備えてせっせと働くけれど、楽しいときを過ごすことを忘れてしまいがちな方向けの本とのこと。

私もそんなにお金に余裕があるわけではありませんが、貧乏だったときのクセで、ついつい必要なことにもお金を出し渋り、あとで後悔することがあります。無駄使いはしたくないし、将来に向けた備えもしていきたいけれど、もっと「いいお金の使い方」はできないかなぁと思い、本書を読んでみました。

著者は金融業界で成功した資産家。祖母に1万ドルの小切手をプレゼントしたりといった、豪快にお金を使うエピソードが出てくるので、お金に余裕がない方が読むと不快な気分になるかもしれません……。

著者のようなお金の使い方をできる人はそうそういないですが、私のように、30代・共働きでライフイベントも落ち着いてきたので、残りの人生でどうお金を使っていくか考えたい、という人には学ぶところがある本だと思います。

早めに経験することで、「記憶の配当」も増える

著者は、「人生は経験の合計」と主張しています。

人生は経験の合計だ。あなたが誰であるかは、毎日、毎週、毎月、毎年、さらには一生に一度の経験の合計によって決まる。最後に振り返ったとき、その合計された経験の豊かさが、どれだけ充実した人生を送ったかを測る物差しになる。

そして、「経験からは、その瞬間の喜びだけではなく、後で思い出せる記憶が得られる」ので、早めに経験に投資することが大切だと述べています。

例えば、80歳まで生きる人が30歳で家族旅行に行ったら、残りの人生の50年間、その旅行を回想したり、家族で思い出話を楽しんだり、他の人に話して共有したり……といったプラスの効果が得られます。この、元の経験から副次的に生まれる経験を、本書では「記憶の配当」と呼んでいました。仮に70歳まで家族旅行を我慢するとしたら、配当を受け取る期間は10年間になってしまいます。

配当を再投資すると複利の力によって雪だるま式に預金が増えていく、という話がありますが、その考えに照らすと早く経験に投資すればするほど、得られるリターンは多くなります

金融業界に長くいる著者ならではの考え方で、本書で特に印象に残った部分でした。

元の経験に「記憶の配当」が加えられていく。DIE WITH ZEROより引用

 

ただ、複利の力はあるにせよ、「配当利回り」が低ければリターンは低いですよね。この経験の投資における「配当利回り」は個人差があると思うで、高めていけたらいいなと思いました。

本書では、経験をしている最中にたくさん写真を撮る、その経験を一緒にした人たちとの再会を計画してみる、といった事例が紹介されています。

大切なのは自分を知ること

闇雲にお金を使い、若いうちにたくさんの経験をすればいいのかというと、そうではありません。

豪快なお金の使い方をする著者ですが、「味の違いがわからないのに高級レストランで食事をした」り、浪費をして将来の蓄えにまで手を付けてしまったことを後悔しています。

大切なのは、自分が大切にしているものを知ること。それは意外とお金がかからないことかもしれません。

そして、将来も含めた資産の状況を把握しておくこと。それによって過度な節約でも浪費でもないバランスを見つけることが大切なんでしょうね。

本書では、老後に必要な金額を見積もるための計算式も紹介されていました。著者の暮らすアメリカとは年金の制度などに違いがありますが、日本でも似たような計算ができるサイトがたくさんあるので、一度試してみると今後のお金の計画が立てられていいかもしれません。

30代共働き夫婦はどうお金を使うべき?

私のような30代共働きで子育て中の人の場合、この本の考えの中で特に大切になるのは、「時間を買う」という点だと感じました。

本書では、人生の満足度を高めるためには「金」「健康」「時間」のバランスが大切だと述べられていますが、ワーママ・ワーパパは「時間」が足りなくなりがちです。

時間をつくるために金を払う人は、収入に関係なく、人生の満足度を高めることがわかっているのだ。

仕事を持つ人を対象に、時間の節約にお金を使わせるグループと、同じ額のモノを購入させるグループに分ける実験を行ったところ、前者のほうが大きな幸せを感じていたそうです。

私たち夫婦は平均より家事代行や時短家電などの「時間を買う」サービスにお金を使っている方だと思いますが、ここは意識して今後も強化していきたいと思いました。

また、上の章で「資産の状況を把握しておくことが大切」と書きましたが、私たち夫婦はマネーフォワードを使って資産の見える化をしています。

お互いの持っている銀行口座やクレジットカードなどの情報をほぼ全部マネーフォワードに連携し、リアルタイムでお金の流れが見えるようにしました。家計簿をつける手間が省けますし、カードが不正利用されたり、サブスクを解約忘れしてた場合もすぐに分かるので便利です。

寄付も早ければ早いほどいい

最後に、いいお金の使い方を考える時に、忘れてほしくない「寄付」について。

おそらく、老後にお金が余っていたら、もしくは使いきれないほど稼げるようになったら寄付をしよう、考えている方が多いと思います。

この本では、寄付をするのも早ければ早いほどいいと書いていました。NPOなどが取り組んでいる社会課題は、まさに今起こっているものが多く、時間が立つほどその課題が悪化してしまう可能性が高いからです。

私はNPOで働いているのでポジショントークっぽくなりますが、若いうちから少しずつでも寄付を始めることを検討していただけたら嬉しいです。

「自分のためにお金を使うより他人のためにお金を使う方が、より幸福を感じる」という調査結果もあります。

最近はSOLIOのように、毎月500円からテーマを選んで寄付できるようなサービスもあります。特に思い入れのある団体がなくても気軽に社会課題解決に参加できる、いい仕組みですね。

貯蓄ゼロ世帯が2~3割いると言われている日本において、この本に関心を持てること自体、とても恵まれていることだと感じています。コロナ後の株高で資産を持っている富裕層と仕事を失いやすい貧困層の格差がますます開いているという話もよく見聞きします。寄付することが当たり前になれば、こういった格差も少し緩和するのではないでしょうか。

自分の人生を充実させると同時に、できることから、社会をよくすることにも参加していきたいですね。

今しかできないことは?長期的な視点で人生を見る

老後は、お金から楽しみを引き出す能力が低下する、ということも繰り返し述べられていました。

一般的に加齢とともに健康や体力は失われ、認知機能や意欲も低下すると言われています。このことを念頭において、人生をロングスパンで眺めて、お金や時間の使い方を考えていきたいところです。

私はいま1歳と3歳の子育て中なのですが、この子達が「ママー、ママー!」と言ってまとわりついてくれるのも、あとほんの数年だと思っています。

「いつまで手を繋いでくれるかな」「あと何回、一緒に旅行できるかな」ということもよく考えます。

今回紹介した「DIE WITH ZERO」を読んで、この貴重な期間をしっかり味わおう、そして将来振り返るためにしっかり記録をっておこう!と改めて感じました。

いまは価値のあることにお金を使い、老後、あまり活発に動けなくなったら、夫と一緒に、いま撮ってGoogleドライブに保存している動画や写真を見ながらのんびり過ごそうと思います(Google50年後もあるかな?)。

以上、お金の使い方を見直したいと思っている方におすすめの「DIE WITH ZERO」の紹介でした。

ABOUT ME
佐藤 茜
2歳児の子育てをしながら編集・マーケティングまわりで活動中。NPO法人ETIC.が運営するDRIVEメディアの編集長。 大学卒業後、人材系ベンチャーで新規事業立ち上げやマーケティングを担当。ニューヨーク留学、東北復興支援NPO、サンフランシスコのクリエイティブ・エージェンシーでのインターン、衆議院議員の広報担当秘書等を経験。 より詳しいプロフィールはこちらから↓
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